各診法の違い-脈診と腹診と望診-

鍼道五経会の足立です。

脈診や腹診、望診を日々の診察診断に用いる先生は多いと思います。

今回の記事は脈診と腹診と望診の違いについて私見を述べてみます。

脈診と腹診と望診の違い

望診は気色を診る診法です。
※ここでは姿勢や形体の肥痩を診る望診は敢えて伏せておきます。

特に顔面部の気の色をみる診法は望診の特色をよく表しています。

気の色はすなわち無形の要素です。

形もなければ触れることもできません。

そして無形であるがゆえにその変化も早いです。

また幽玄微妙な変化であるため、ほの暗い条件で気色が現れます。

無形は陽であり、有形は陰であります。

有形を診る診法の最たるものが腹診です。

その代表例が積聚です。難経五十五難にあるように形を触知し、その形状から病態を察します。

有形であるため、当然ながら手に触れることができます。
虚か実かの判定も手の感触により決定づけることができます。

また、腹部という部位を考えても、四肢が陽であるのに対して胴体・体幹部は陰です。
さらに腹背でみても、腹部は陰であり背部は陽です。

すなわち陰中の陰である部位にて陰の反応を診る診法、即ち陰の診法が腹診であるといえるでしょう。

これに対して、前述の望診は面部を診ます。
面部は陽である上部の前に位置し、血氣の集まる部位であるからだと考えています。

『霊枢』邪気臓腑病形篇第四
「岐伯答えて曰く、十二経脈、三百六十五絡、その血氣は皆 面に上りて空竅に走る。
その精陽氣、上りて目に走り睛と為す。
その別氣、耳に走りて聴と為す。
その宗氣、上りて鼻に出て臭と為す。
その濁氣、胃に出て、唇舌に走りて味と為す。
その氣の津液、皆面を上燻する。」

さて、陽の陽たる部位で無形の氣の色を診るという診法が望診。
それ故に氣色をみる望診は陽の診法といえるでしょう。

この腹診と望診、両者の陰陽比較は分かりやすいと思います。同様に脈診について考えてみましょう。

脈診は陽の診法?陰の診法?

現代での脈診は手首の寸口部(広義の寸口)で診る方法が主流です。
主にこの寸口脈診について考察しましょう。

結論から言うと、脈診は陰陽ともに診る診法だと考えています。

なぜなら、脈形、脈状ともに診ることができるからです。
脈形は有形の要素であり、指に触れることができます。

脈状は有形のようにもみえますが、はっきりとした形とは言い切れない要素が強いですね。
ですから、脈状を人に伝えるにも、受け取るにも脈診家は苦労していますよね。今も昔も。

「初春の楊柳が風に舞うような脈」とか、
「病気の蚕が葉っぱを食べるように慢で艱な脈」とか、
「小刀で竹を削るように短で難な脈」とか、
「水の中の絹布のような脈」とか、このようなソムリエのような脈の表現に覚えがあると思います。

ちなみに、ここで出てくる慢・艱、短・難は、どれも脈の流れがなめらかではない状態を表現しています。
小刀でいろいろな材木を削った経験のない人や、蚕やイモ虫が葉を食べる姿を知らない人にはまず伝わらない表現ですね。

このように受け取る人によって解釈が変わりかねない不確定な要素を孕んでいます。これが形の無い要素のひとつです。

また無形と言えば、脈の遅数も同様ですね。

血脈は心に通ずるものである故、その人の精神情動がそのまま脈にも影響します。
また心神にもつながる存在であるため、脈をみるという行為は単純なものではなく、奥の深い世界になります。

この脈形と脈状、陰と陽の組み合わせた診法だからこそ、脈診というのは高度にして難解な技法でもあるのだと考えています。

まさに「脈に神あることを貴ぶ」という言葉の通りです。

なぜ違いを知る必要があるのか?

さて、以上のように脈診・腹診・望診の特性が違うということは、それらの診法で得られる情報は同じではない、ということが言えます。

それぞれの診法の性質や診る対象の階層の違いなどを考慮して診断を行う。これが四診合参というものですね。

一例ですが、無形の邪は気であることが多く、有形の邪は瘀血であることが多いです。
実邪が気か血かの違いで治法は変わってきますよね。

このように「敵を知り己をしれば百戦危うからず。」という孫氏の言葉通りですね。
(己を知るとはコチラの記事 → あなたは何タイプの鍼灸師?

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