栄衛の刺法を学ぶ-難経七十一難-

その鍼は栄に効かせている?衛に効かせている?

栄衛に対する刺法が本難には記されています。

栄気に対する鍼と衛気に対する鍼は区別されるべきであるのは言うまでもありません。
ちなみに難経における栄気衛気の情報は難経三十難にあります。

余談ながら当会では毫鍼は栄気に対して効かせやすいタイプの鍼と位置づけています。
(もちろん衛気に対しても効かせられるのですが)

衛気栄気の特性を理解することで、衛気に対するアプローチ、栄気に対するアプローチなどが分かってくるのです。

では、七十一難における栄衛に対する刺法を読んでみましょう。


『難経本義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。

書き下し文 難経七十一難

七十一難曰く、経に言う、栄を刺さば衛を傷ること無し。衛を刺さば栄を傷ること無し。何の謂い也?
然り。
陽に鍼する者は、鍼を臥せ而してこれを刺す。
陰を刺する者は、先ず左手を以って鍼する所の榮兪の處を攝按し、氣を散じて乃ち鍼を内れる。
これを栄を刺さば衛を傷ること無く、衛を刺さば栄を傷ること無き也。

栄衛の違いは脈の内外にある

栄気と衛気の違いのひとつは「脈中の気」か?「脈外の気」か?ということです。(『素問』痺論『霊枢』営衛生会『難経』三十難より)

栄気への鍼は経脈の気に効かせる鍼であり、
衛気への鍼は経脈外の気に対する鍼となります。

つまり層の浅深だけでなく、経脈の内外といった視点に大きな違いがあるのです。

もちろん栄気・衛気の両者は相い随う存在ですから、衛気への鍼と栄気への鍼との間に絶対的な差はありません。
しかし、両者にはそれぞれの特性があることはある程度理解しておきたいところなのです。

栄気に鍼するには衛気を動揺させない

「栄気に鍼刺するには衛気を傷つけること無かれ」
「衛気に鍼刺するには栄気を傷つけること無かれ」

七十難では刺法・テクニックが記されています。
「陽(衛気)に鍼するには鍼を臥せて之を刺す」
この文では表層への刺鍼を支持し、深層への刺鍼を控えるよう指示しています。

しかしこの文の解釈次第では、色々な応用ができるでしょう。
刺鍼そのものだけでなく、鍼を扱いそのもの・鍼の近づけ方・鍼管の使い方等にも通ずるものがあります。

「陰を刺する者は、先ず左手を以って鍼する所の榮兪の處を攝按し、氣を散じて乃ち鍼を内れる。」

栄気に効かせるということは、衛気を無駄に動揺させてはならない…ということです。
本文では左手(押手)の操作によって衛気(表層の気)を開くことをポイントとしています。

無遠慮に鍼を近づけ刺鍼するという行為は、衛気というセンサーが働いて衛気が動揺するのは当然です。
そうならないように押手で経穴を按じて表気を開き、毫鍼を効かせやすいようにお膳立てするのですね。

筆者はこの表気を開くという行為は、お灸でも行っています。
艾(もぐさ)の捻りを変えることで、表気を散らす艾灸、深層の気に至らせる艾灸を使い分けることが可能です。

このように表層の気または深層の気へとアプローチを使い分けることは、その結果に如実にあらわれてきます。
最も分かりやすいのは脈の変化でしょう。
脈証の変化率や変化した後の安定性などによくあらわれます(厳密に比較することはできませんが)。
つまり栄気の調整とその後の安定性に有効であるということですね。
鍼・灸ともに、その技術には微細な工夫は数々あります。
一つ一つの工夫は微小な変化にしか結びつきませんが、
それらの工夫の積み重ねが、確実な結果として反映されるのだと思うのです。

余談ながら…七十一難では鍼の浅深により栄衛への刺法を区分し、深層への鍼を栄気への鍼としていますが
当会では置鍼もまた栄気に対する鍼法であると認識しています。

栄気・衛気への理解を深めていくことで、鍼の技法一つ一つに意味があることが分かってきます。
この一つ一つの疑問や謎が分かったとき、勉強すること治療することが楽しさや喜びに結びつくのですね。

 

鍼道五経会 足立繁久

原文 難経七十一難

七十一難曰、経言、刺榮無傷衛。刺衛無傷榮。何謂也?
然。
鍼陽者、臥鍼而刺之。
刺陰者、先以左手攝按所針榮兪之處、氣散乃内針。
是謂刺榮無傷衛、刺衛無傷榮也。

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