難経六十四難では井栄兪経合の横の関係を学ぶ

難経 六十四難のみどころ

前の六十三難では井栄兪経合の起点(井穴)を示し、五行の性質とともにその順序を示した。
六十四難ではさらに発展させ、井栄兪経合の五行にまたさらに陰陽を加えることで、五行の夫婦関係にまで発展させている。六十三難を縦の関係とすると、六十四難は横の関係だといえる。
これによって相生と相剋、母子関係と夫婦関係が完成する。では六十四難本文を読みすすめてみよう。


※『難経或問』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経 六十四難の書き下し文

書き下し文・難経六十四難

六十四難に曰く、十変に又(また)言う、陰井は木、陽井は金、陰栄は火、陽栄は水、陰兪は土、陽兪は木、陰経は金、陽経は火、陰合は水、陽合は土。
陰陽皆な同じからず。其の意は何ぞ也?

然り。
是れ剛柔の事也。
陰井は乙木、陽井は庚金。
陽井は庚、庚は乙の剛也。

陰井は乙、乙は庚の柔也。
乙は木と為す故に陰井は木と言う也。
庚は金と為す故に陽井は金と言う也。
余は皆此れに倣え。

陰経と陽経では異なる五行

六十三難では井穴を木とし、それによって、栄穴が火、兪穴が土、経穴が金、合穴が水であることを暗に示唆している。なぜなら木は万物の始生であるからだ。
六十四難ではさらに陰陽の設定を加えている。すなわち陰経と陽経である。これによってさらに井栄兪経合の構造を緻密なものにしている。
陰経と陽経において井栄兪経合の流れ(出・溜・注・行・入)は変わらない。しかし、陰経と陽経において異なる点がある。
この陰経と陽経における差異こそが、井栄兪経合における五行の夫婦関係に発展させる要因となるのだ。

井栄兪経合における五行・夫婦関係

六十四難の文章から夫婦関係の内容をみてみよう。

陰経の井穴(陰井)は木の性質を有する。このことは前六十三難で示されている。
そして陰栄・陰兪・陰経・陰合は順次、火・土・金・水となる。

しかし、陽経の井穴(陽井)はそれとは異なり金の性質を帯びると本六十四難では明示している。
当然、陽栄・陽兪・陽経・陽合は順次、水・木・火・土となる。

したがって陰井(木)と陽井(金)はそれぞれ乙と庚であり、庚(金陽)と乙(木陰)は互いに夫婦関係にあることは難経三十三難に既に記されている。
これにより陰経・陽経の井栄兪経合におきて、夫婦関係と母子関係が成り立つこととなる。

『難経或問』でも夫婦関係について六十三難・六十四難の註文にて記されている。特に下記六十三難の註文では相尅関係によって亢害(一方が亢進し過ぎることで生じる弊害)が未然に防ぐことができるという。
これは五行観の基本であるが、このような平衡を保つ機能が人体の経絡のさらに経穴という小ユニットにまで備わっているという人体観は実に興味深いものがある。

『難経或問』六十三難

……其の次序を論ずるときは則ち、甲乙は木、丙丁は火、戊己は土、庚辛は金、壬癸は水。
俱に相生を以て列を為す。
其の配合を論ずるときは則ち壬丁は木、戊癸は火、甲己は土、庚乙は金、丙辛は水。
俱に相尅を以て対と為す。
蓋し四時、十二月、五行の相生而已(のみ)にして、相尅の無きときは則ち必ず亢害の変有らん。
四体十二経も亦た猶お然るが如し。
相生而已(のみ)にして、相尅無きときは則ち疾病當に発起すべし也。
是を以て陰陽経の穴、自然に相尅配合の理を具う。故に臓腑は亢極の変無きにして内外は調和し、人身は平安也。
吾子、配合の道を以て、常の例と為して看ること勿れ。

■原文
……譬猶十干。論其次序、則甲乙木、丙丁火、戊己土、庚辛金、壬癸水。
俱以相生為列、論其配合、則壬丁木、戊癸火、甲己土、庚乙金、丙辛水。俱以相尅為對。
蓋四時十二月五行相生而已、而無相尅則必有亢害之變。
四體十二経亦猶然。相生而已、而無相尅、則疾病當発起也。
是以陰陽経穴自然具相尅配合之理。故藏府無亢極之變、而内外調和、人身平安也。
吾子以配合之道、勿為常例而看焉。

蛇足かもしれないが、念のため六十四難の部分も付記しておこう。

『難経或問』六十四難

或る人問いて曰く、六十四の難、臓腑経穴の夫妻配合の義は既に前篇に於いて之を聞くことを得たる也。
然して此の篇の答詞、重複に似て却て通じ難し。請う詳かに其の文段の釈を、愚蒙を発せば幸甚なる哉。
対て曰く、是惟(これただ)庚乙の配合の一を挙げて、而して其の他の例とする也。
(或る人)請う逐一にその義を解せん。
夫れ十変の言う所の者、是皆(これみな)陰陽剛柔の配合の事也。
蓋し陰井とは乙木、陽井とは庚金。
故に庚は乙に勝することを作して、而して剛と為す。
乙は庚に制する所にして柔と為す。
乙は木にして金の為に尅せる所、故に十変では、陰柔の井穴は、皆 木に属して妻と為る。
庚は金にして能く之が木を制す、故に十変では、陽剛の井穴は、皆 金に属して夫と為る。
所謂(いわゆる)剛柔の事に非ざる乎、栄兪経合も皆、宜しく類を以て推す也。是の始末の文義、何ぞ重複すること之有らんや。

■原文
或問曰、六十四難藏府経穴夫妻配合之義、既於前篇得聞之也。
然此篇答詞、似重複而卻難通。請詳釋其文段、發愚蒙、幸甚哉。
對曰、是惟擧庚乙配合之一、而例其他也。請逐一解其義矣。
夫十變所言者、是皆陰陽剛柔配合之事也。蓋陰井者乙木、陽井者庚金。
故庚者、作勝于乙、而為剛。乙者所制于庚、而為柔。
乙者木而為金所尅、故十變、陰柔之井穴、皆属木為妻。
庚者金而能制之木、故十變、陽剛之井穴、皆属金為夫。
所謂非剛柔之事乎、榮兪経合皆宜以類推也。是始末之文義何重複之有乎。

鍼道五経会 足立繁久

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原文 難経 六十四難

■原文 難経 六十四難

六十四難曰、十變又言、陰井木陽井金、陰榮火陽榮水、陽兪土陽兪木、陰經金陽經火、陰合水陽合土。
陰陽皆不同。其意何也。

然。
是剛柔之事也。
陰井乙木、陽井庚金。
陽井庚、庚者乙之剛也。
陰井乙、乙者庚之柔也。
乙為木、故言陰井木也。
庚為金、故言陽井金也。
餘皆倣此

 

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