『切脈一葦』これまでの内容
1、序文
2、総目
3、脈位
4、反関
※下記の青枠部分が『切脈一葦』原文の書き下し文になります。
『切脈一葦』京都大学付属図書館より引用させていただきました
平脈
一息五至は数の平なり。
浮ならず沈ならざるは位の平なり。
滑ならず濇ならざるは状の平なり。
春夏の浮、秋冬の沈は気候の平なり。
痩せる者の浮、肥える者の沈、盛んなる者の盛、衰える者の衰、性急なる者の躁、性緩なる者の静は、禀賦の平なり。
小児の数、壮年の実、老人の弱は年歯(としは)の平なり。
遠行の疾、憂患の微、久飢の空、食後の洪、酒後の数は時の平なり。
平脈も文字に拘ると「和緩」「弱以滑」「軟滑徐和」…などなどの表現があります。
しかし、ここで書かれているように盛んなる者の盛(脈)、衰える者の衰(脈)などはその人の素体を表わす脈です。
同様に憂患の微(脈)もその人の宿を示す脈ですね。
何が言いたいのかというと、その人の素体・基本体質に沿った脈を把握することが大事なのです。
分かりやすく例えると、小児は数を帯び、老人であれば弱を帯びるのが平です。
しかし、平脈の定義に拘って小児の数脈を減らすような処置、老人の脈を弱から実にさせるような治療を行うと、その体質にとっては負担となる結果になります。
それぞれの個性を判断し、どの脈が平なのか?を見極めることが大事ですね。
性急なる者にして静。性緩なる者にして躁なる者あり。
小児にして遅、壮年にして弱、老人にして実なる者あり。
片手浮にして片手沈なる者あり。片手遅にして片手数なる者あり。片手滑にして片手濇なる者あり。
結促する者あり。代する者あり。
七死の脈を見わす者あり。
これみな禀賦の変脈にして、平脈と異なることなし。
或いは大病の後、打撲の後、驚恐の後に変じてこの脈と為る者あり。
既に常と為るときは禀賦の変脈と同じ。何ぞ怪に足らんや。弦洪浮沈を四時の平と為る説あり。
弦鈎毛石を四時の平となる説あり。
長滑浮虚短濇沈実を四時の平と為る説あり。
浮大にして散を心の平と為し、浮濇にして短を肺の平と為し、弦にして長を肝の平と為し、緩にして大を脾の平と為し、沈にして軟滑を腎の平と為る説あり。
これみな分配家の空言なり。
この説もなるほどと思わされます。
脈にも個性があり、セオリー通りではない脈証を呈することがしばしばあります。
治療の後、通常であれば和緩を帯びるはずが、きれいな弦脈を表していたりすることもあります。
この場合、きれいな弦であることが多いです。
元々、結代脈がベースの人もいますね。
また、洪大脈が素の脈である人にも出会ったことがあります。
この人の場合は、脈中を雄渾に流れる気血の流れが洪大脈として表現されている感じました。
ちなみに私は細脈がベースであります。
なので、脈診実技で脈を診てもらうと、初見の方はたいていの場合
「先生…大丈夫ですか?むちゃくちゃお疲れではないですか?」
とよく心配されます。
でも、そう心配されるほどに私、疲れてないんですね…。
これも私の素が細脈であることが認識できれば、また判断が変わってくるということです。
胃氣『切脈一葦』⑥に続きます