伏脈とは『診家枢要』より

脈診の目的は「脈をみれるようになる」ではない!

名前の通り、潜伏潜行する脈状です。
『なぜ脈が潜行することになるのでしょうか?』
このような思考は脈診を理解する上で重要な問いとなります。

通常の脈診習得の思考の流れだと…
「どんな脈をうっているのか?(触知すること)」
「触知した情報が合っているのか?(指先の精度)」
「脈状と病症のリンク」
といったパターンになるのではないでしょうか。

しかし、脈診の目的は「脈を診れるようになる」ではありません。
「脈を通じて人体がどのような状態になっているのか?」を知ることにあります。
『なぜこのような脈状があらわれるのか?』という疑問は、脈を通じて体内や精神がどのような状況にあるのか?を理解する最重要トレーニングなのです。

脈の陰陽類成 伏

伏脈とは、見(あらわ)われず也。
軽手にてこれを取れば、絶して見われる可らず、重くしてこれを取れば、骨に附著す。

陰陽潜伏、関鬲(※)閉塞の候と為す。(※関格の説あり)
積聚と為し、瘕疝と為し、食不消と為す、霍乱と為し、水氣と為し、榮衛氣閉して厥逆と為す。
関前にこれを得れば陽伏と為し、関後にこれを得れば陰伏と為す。

左寸口の伏脈は、心氣不足にして神 常を守らず、沈憂抑鬱す。
関上の伏脈は、血冷し、腰脚痛み及び脇下に寒氣あり。
尺中の伏脈は、腎寒え精虚し、疝瘕寒痛す。

右寸口の伏脈は、胸中氣滞、寒痰冷積。
関上の伏脈は、中脘積塊 痛を作し、及び脾胃停滞す。
尺中の伏脈は、臍下冷痛し、下焦虚寒、腹中痼冷す。

伏脈の形状(脈状)

「軽手では脈はみられず、重手にて骨に付着するように脈が潜行している」という文があります。
「軽手・重手」という表現は沈脈にも登場します。また、按と挙とはニュアンスが異なることも考えるべきでしょう。

関鬲・関格から伏脈を理解する

「陰陽潜伏」はイメージしやすいでしょう。しかしそれだけでは不十分です。
「関鬲(※関格との説もある)閉塞の候」という文中のワードが大きなヒントとなります。

関鬲、関格ともに陰陽が通ぜず、陰陽否格、互いに拒み合うようになることは、陰陽の世界観の中でかなりシビアな状況にあるといえます。
この陰陽否格、陰陽の離れという条件においては、動脈と伏脈は対となる脈といえるのではないでしょうか。

前回の動脈の話を基に考察を続けますと…
動脈も陰陽が互いに搏(う)ち合う状態を示す脈でした。しかし動脈はまだ一方の衰に他方が乗じた程度。動脈の程度にもよるのかもしれませんが(各医書に列挙された病症群を照らし合わせると)、動脈の延長線上にさらなる陰陽の離れ、陰陽否格あることが推理できます。
ですから、動脈の示す病症には「発熱や汗出」(傷寒論 弁脈法)から「痛・驚・虚勞体痛・崩脱・泄利」と(一見したところ)初期病症や軽症のものから始まり、重症のような症状まで幅が広いのです。
これに対し、伏脈の病症となると「積聚、瘕疝、食不消、霍乱、水氣、榮衛氣閉而厥逆」と動脈の病証に比して慢性病症がほとんどです。この病証群の対比からも、同じ陰陽否格の路線上にある動脈と伏脈でも、その程度や軽重などを推理うすることができるのです。

※関鬲・関格については『関格』名義変遷攷,日本医史学雑誌 第55巻第1号(2009) 57-75 が参考になります。

ジブリ絵から伏脈を理解する

イラストa、隠密中のアリエッティ、療養中の少年 翔クンと出会う
 

イラストb、衝突したり和解したり、なんだかんだお互いの心を通い合わせるようにみえるが…

イラストc、やはり大きな流れの中では最終的に別れという選択をすることとなる。

※スタジオジブリの作品静止画より使用させていただきました。

作品のストーリーやメッセージの理解に関しては諸説あると思うが、“アリエッティ”と“翔くん”を陰陽関係にしてみると、どうあっても陰陽和合の可能性は見いだせず、互いに乖離する流れしか見いだせない。
これが動脈から伏脈への脈診ストーリーの一つとしても譬えることができるのではないだろうか。

鍼道五経会 足立繁久

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 伏

伏、不見也。
軽手取之、絶不可見、重取之、附著于骨。
為陰陽潜伏、関鬲閉塞之候。
為積聚、為瘕疝、為食不消、為霍乱、為水氣、為榮衛氣閉而厥逆。
関前得之為陽伏、関後得之為陰伏。

左寸伏、心氣不足、神不守常、沈憂抑鬱。
関伏、血冷、腰脚痛及脇下有寒氣。
尺伏、腎寒精虚、疝瘕寒痛。
右寸伏、胸中氣滞、寒痰冷積。
関伏、中脘積塊作痛、及脾胃停滞。
尺伏、臍下冷痛、下焦虚寒、腹中痼冷。

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