難経十三難は診法合参について論ず

難経 十三難のみどころ

これまで死脈(十一難)や臓気の絶を診る法(十二難)がどちらかといえばシビアな段階の話が続きました。それに比べて十三難の内容はもう少し日常の臨床的な話になります。
本難のテーマとなるのは、病の順逆をみる話や診法合参の話です。それでは本文を読みすすめてみましょう。


※『難経或問』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経 十三難の書き下し文

書き下し文・難経十三難

十三難に曰く、経に言う、其の色を見て其の脈を得ず、反て相勝の脈を得る者は即ち死する。相生の脈を得る者は、病即ち自ずと已える。色と脈、當に参えて相応す之を為すこと奈何に?

然り。
五臓に五色有り、皆な面に於いて見わる、亦た當に寸口尺内と相い応ず。
仮令(たとえば)色青きは、其の脈は當に弦而して急なるべし。
色赤きは其の脈は浮大にして散。
色黄きなるは其の脈は中緩にして大。
色白きは其の脈は浮濇にして短。
色黒きは其の脈は沈濡にして滑。
此れ所謂、五色と脈は當に参へて相い応ずる也。

脈数なれば尺の皮膚も亦た数。
脈急なれば尺の皮膚も亦た急なり。
脈緩なれば尺の皮膚も亦た緩なり。
脈濇なれば尺の皮膚も亦た濇なり。
脈滑なれば尺の皮膚も亦た滑なり。

五臓各々に声色臭味有り。
當に寸口尺内と相い応ずるべし。
其の相い応ぜざる者は病む也。

仮令、色青く其の脈は浮濇にして短、若しくは大にして緩なるは相勝と為す。
浮大にして散、若しくは小にして滑なるは相生と為す也。

経に言う、一を知るは下工と為す。二を知るは中工と為す。三を知るは上工と為す。
上工なる者は十に九を全うす、中工は十に八を全うす、下工は十に六を全うす、此れ之の謂い也。

順逆の判定能力は臨床にて不可欠

十三難では相勝(相剋)と相生の病伝のことから始まります。相生・相剋の病伝については難経五十三難にて既に紹介しました。

さて病の順逆を判断することはとても重要です。
『これは比較的 治しやすいぞ』と思ったり、「これは心配ない症状ですよ」と患者さんに伝え安心してもらう…臨床家ならばこのような心情があるものです。

反対に『これは慎重に治療にあたるべき』といった判断や「念のため病院に行って検査してもらうと良いですよ」といった助言ができることもやはり臨床鍼灸師としては必要不可欠な判断です。

東洋医学にもこのような病態の順逆、治療の難易もしくは可治不可治を判定する基準があります。その一つが五行的にみた病伝の相生と相剋です。

診法合参のきほん

十三難では「色と脈が相い応じている(色之與脉、當参相應為之奈何)」としています。これは望診と脈診が基本的には相応関係にあるとしています。また続く文には尺内の皮膚(尺膚診)とを踏まえた三診合参について述べられています。

これと同様に『霊枢』邪氣臓腑病形第四でも「色、脈と尺これ相い應ずること、桴鼓 影響の相い應ずるが如し也。相い失うこと得ざる也。(夫色脈與尺之相應也。如桴鼓影響之相應也。不得相失也。)」として、望診と脈診と尺膚の所見が基本的に相応関係にあることを示しています。

各診法は「まさに参(まじ)えて相い応ずるべき(當参相應也)」ものなのです、本来は。
しかし、各診法が相応しない場合があります。

太鼓を叩いても音が鳴らないということは…?

本文には「それらが相応しない場合は病むなり」とあります。この「病む」とは相剋の逆証という意でしょう。
基本的に各診法は相応関係にあります。
例えば木証(肝胆の病)の場合であれば、脈は弦、色は青、尺膚は急であるはずです。
しかしそれらの情報が合わない場合がある。この情報のズレは非常に重要です。
診察で得られた情報の差分を利用して私たちは診断を行っているのです。

特に鍼道五経会では、診法の性質を理解することから始めます。四診(望診・聞診・問診・切診)はそれぞれ同じものを診ているのではありません。
切診の中でも脈診と腹診はやはり診ているものが違います。
つまりこの十三難では色(望診)・脈(脈診)・尺膚(≒腹診)の三診合参を行うことで精密な診断を行うことを推奨しているのです。

『なぜ各診法の情報が合わないと悪い病態なのか?』素朴すぎる疑問かもしれませんが、診法を理解する上では大事な考察です。

各臓腑が病んで異常を起こしている場合、それら各臓腑を起点にしてそれぞれの病態がそれぞれの診法部位に異常となる情報を表わします。病的な反応が関係各所に投影されるというイメージでしょうか。

さらに各診法で診ているものが異なるという要素を加えると、それらの情報はさらに複雑化します。ややこしいかもしれませんが、実際に現実に直面する病態はややこしいのですから当然といえば当然のことといえるでしょう。

 

鍼道五経会 足立繁久

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原文 難経 十三難

■原文 難経 十三難

十三難曰、経言、見其色而不得其脉、反得相勝之脉者即死、得相生之脉者、病即自已。色之與脉、當参相應為之奈何。

然。
五藏有五色、皆見於面、亦當與寸口尺内相應。
假令色靑、其脉當弦而急。
色赤其脉浮大而散。
色黄其脉中緩而大。
色白其脉浮濇而短。
色黒其脉沈濡而滑。
此所謂五色之與脉當参相應也。

脉数尺之皮膚亦数。
脉急尺之皮膚亦急。
脉緩尺之皮膚亦緩。
脉濇尺之皮膚亦濇。
脉滑尺之皮膚亦滑。

五藏各有聲色臭味、當與寸口尺内相應。
其不相應者病也。

假令色靑其脉浮濇而短、若大而緩為相勝。浮大而散、若小而滑為相生也。

経言、知一為下工。知二為中工。知三為上工。
上工者十全九、中工者十全八、下工者十全六、此之謂也。

 

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